『神を待ちのぞむ』2020

 

 複数回のながきにわたって刊行が延期した本が先日出た。

 

シモーヌ・ヴェイユ『神を待ちのぞむ』今村純子訳、河出書房新社、2020(須賀敦子の本棚8 池澤夏樹監修)

 

 春秋社の2009年版を読んでいる。読んだといっても、かなり時間が経ってしまった。ので、忘れている。それから、『根を持つこと』とか『自由と社会的抑圧』とかは読み返すからというのもあると思う。

 そんなわけで、まあ、新しく出たからこれから読んでいこうと思っている。今度はどんな感覚を抱くことになるのやら。

 

 

早川、2つ

 

 

 先日、見かけた文章(https://anond.hatelabo.jp/20200701175011)に「ハヤカワは伴名練という作家に過剰な文脈を背負わせすぎなきらいもあり、」というのがあり、私もそう思う、とうなずく。

 表紙の装丁については、SFならという条件で、実写人物ではしょうがないし、抽象画ではしょうがないしで、人物のイラストというのはベストかどうかはともかく、穏当な所なんじゃないかな。

 

テッド・チャン『息吹』早川書房

 「商人と錬金術師の門」が好み。

 大森さんの訳者解説が最初からフルアクセル。

 

p141 17行目(後ろから5行)マルコとポール

 13,18、21行目にマルコとポーロがあるのに、なぜここだけという変なものなのだが、誤植とはそういうもので、どうしても出てしまうものなの。わかっちゃいるが、とはいえ、隣にあるのに見つけられないというのは歯痒くてしょうがない。

 

 やむにやまれぬことがあったにせよ、催事においてあれこれと気になることをメーカーの人に尋ねる機会がさっぱりなくなってしまったのが、まったくもって困る。

漢詩はちょっとすぐには出てこない

 
 先週は乃木坂で書の展示を見てきました。

 

 なんというか、いろいろ考えると難しい――難しいというか、うまいことはまらずにむず痒いというのが、毎度展示を見に行って思うことではあります。難儀。

 

 「水深魚極楽」というのがあって、字面はおもしろいけれども、これ、どっから取ってきた? というのがあって(おおむね離れて眺め、ケース展示の仮名と篆刻だけちゃんと寄って見るという感じだったので)、調べてみたら杜甫で、「林茂鳥知帰」と続く。そういえばそんなのがありましたな。形としてはペアなのだが、半分を省くのはありでしょう。対でちゃんと書いていたら注目したかどうか。打率半減というところでしょうか。

 

 物販で書道具屋の人とあれこれ話す。せっかくだからと買う。

 

 

おいしいラーメン

 

伴名練『なめらかな世界と、その敵』早川書房


 感想を一言にすると、おいしいラーメン。


 いわゆるネタバレを避けるための緩衝として期待値の話を。
 世間の評価を参照すると、どうにも期待値が過剰エラーを返すということが『三体』で明瞭になってきたので、だいぶ刈り込みはしたものの、まだ甘いらしい。言語というか表現はインフレしやすいとは思っているものの、自分だけならともかく、他人に調整をかけるのは実務として無理があるので、めんどくさいなぁと思う。
 『三体』の時は、おもしろいにもかかわらず、期待値が青天井過ぎたがためにその落差に困惑し、今回はおいしいラーメンはラーメンがおいしいのではなくスープがおいしいのではないだろうかというような疑念に迷い込む程度で済んだ。それなりにうまくいったようではある。
 なんでこんなことをあーだこーだしているのかというと、まだこの後に『息吹』『黄金列車』『三体Ⅱ』があるから。間違えると、勝手にダメージを受けることになるので、できることはしておきたい。
 なにもなしに選んだ物を読んでばちこーんと衝撃を受けるのが一番いいのかもしれない。

 

 収録順に。
・「なめらかな世界と、その敵」
 そもそもにおいて、この題とポパーとの関連が気になっていたというのがある。題だけについていえば、ポパーからの直ではなく間にもう一つ挟まっているというのは事前に調べた。
 冒頭から、なんか変なことやってんねぇという感じ。マコトが出現するまでで、だいたいの様式のようなものには馴染める。変なことにせよわかりやすい。
 読み終わってから検索したところでは、読み込めばこの段階でも記述から構造がわかるようになっているということなので、軽く流してしまったのはもったいなかったかもしれない。

 

・「ゼロ年代の臨界点」
 最後の最後にあるフジの言葉(p68)がとてもすばらしい。

 

・「美亜羽へ贈る拳銃」
 古式ゆかしいラブロマンス、などとすると怒られるだろうか。でも要件は足りていると思う。

 「なめらか~」も「美亜羽」も、後の「アイアンメイデン」も「ひかりより~」も、異質、孤立、疎外、不親和、順応あたりの因子が充ち満ちているので、相性がいいのだろう。(SFを利用して)虚構においてそのあたりを際立たせることができれば、それはじつに有効。

 p132の1行目はどうなんだろうとは思った。別の表現を使える人であると判断しているので、それでなおこれでないといけないという理由。


・「ホーリーアイアンメイデン」
 慈愛に満ちた死刑。
 穏やかすぎる気もするが、このぐらいがちょうどいいのかもしれない。


・「シンギュラリティ・ソヴィエト」
 みんな大好きソ連


・「ひかりより速く、ゆるやかに」
 2700年必要だというのは、まことに説得力のある言い分だと私は思う。絶対値が問題なのではなく、つながりが切れる寸前の呆れかえるような距離ということ。
 博奕を打つところで、馬鹿だなぁと思う。この馬鹿だなぁは、青春を是認する時に目を細めたくなる馬鹿だなぁである。
 文明尺度がそれだというのは、まあ、お話の都合だ。

 

 
 短篇集なのでしょうがないとはいえ、不確定の言いさしを一冊で何回も読むとめんどくさくなるというのは覚えておきたい。全部書いて戦うのが理想。そう簡単に思い描いたとおりに出来れば苦労はしない。だからあがかざるを得ない。