ボンヘッファー

 

  

宮田光雄『ボンヘッファー 反ナチ抵抗者の生涯と思想』岩波現代文庫、2019

   

 まえがきに「日本におけるドイツ現代史への関心の高さにもかかわらず、ボンヘッファーの名前は、かならずしも一般読者にはよく知られていないのではないかと思われます。」と書かれています。
 思うに、日本でボンヘッファー知名度が今よりも良くなることは、たぶんないでしょう。対ナチス抵抗運動という点で注目されたとしても、キリスト教神学者という要素は、こういう言い方はどうかとは思いますが、残念ながら役に立つことはないでしょう。

 私がボンヘッファーをちゃんと認識したのは、昔、書庫でヴェイユ関係の本を探しているときに隣の棚にあった(フランスとドイツなので棚も隣接する)からなので、そもそものきっかけが多くの人にはたぶんない。

 

 即決裁判と司法的復権の項は、これまたどうかとは思いますが、興味深いです。「司法的」とくっついているところが重要で、単純な名誉回復とはまた少し違う。

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 このとき当局の一部には、不当判決にたいする抗告はボンヘッファーの近親者から提起されるべきだといった不満の声も出ていたようです。しかし、当然のことながら、ボンヘッファーの家族や友人たちのあいだからは、そうした必要をいっさい認めませんでした。じじつ、投書に示された一つの声は、当時の一般的雰囲気をよく伝えています。

    「ディートリヒ・ボンヘッファーは何ら復権される必要はない。彼とその仲間の人びとが抵抗に身を投じ生命を捧げたという事実は、この上ない名誉なこと以外の何ものでもない。すでに五〇年来、ドイツを世界の中で復権してくれた者こそ、まさにディートリヒ・ボンヘッファーにほかならないのだ」。

p59-60

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 先日、式典でのメルケルさんの不服従が責務になることもあるというような発言がありました。そういう意味で、「司法的」以外の部分については言うまでもない。神学者が、ヒトラー暗殺計画に荷担するという点も忘れてはいけない。

 そんなわけで、なかなか簡単には読み解けない部分が多々あります。

 

 

 末尾の50ページほどで、ボンヘッファーによるの日本研究、天皇制研究から、ナチスの体制をかざし見る(日本研究にナチスをすかし見る)という項があります。あまり見かけないタイプの話なので興味があればここだけで読んでみるのもありかとは思います。